統合失調症におけるAI利用
統合失調症におけるAI利用
―「異常検知」ではなく「意味の橋渡し」としてのAI―
Ⅰ.前提の転換:統合失調症は「壊れた脳」ではない
古典的理解
ドーパミン過剰/脳機能障害
現代的理解
世界の意味づけ(salience)が過剰・不均衡になる状態
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些細な刺激が「重要すぎる」
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内的体験と外界の境界が曖昧
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物語が暴走するが、論理は部分的に保たれる
👉「異常な体験」ではなく「意味生成が暴走した状態」
ここにAIをどう置くかが、すべてを決めます。
Ⅱ.AI利用の基本原則(超重要)
統合失調症領域では、AIはやってはいけない役割が多い。
❌ 絶対に避けるべきAI像
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診断を断定するAI
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妄想内容に直接介入するAI
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価値判断をするAI
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「真実」を語るAI
⭕ 許されるAI像
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揺らぎを検知するAI
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関係性を補助するAI
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時間をつなぐAI
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現実検証を“間接的に”支えるAI
Ⅲ.AI活用の6領域(慎重設計版)
① 前駆期・再発兆候の検知(Early Warning AI)
● なぜAIが有効か
本人も家族も、
「悪くなっていることに気づけない」
● 使用可能データ(非侵襲)
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睡眠リズムの乱れ
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発話量・文構造の変化
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SNS・日記の語彙跳躍
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活動量の急変
● AIの役割
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「異常」ではなく「いつもと違う」を検知
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主治医・訪問支援にだけ通知
👉本人に直接フィードバックしない設計が鍵。
② 再発予測と服薬支援(Adherence AI)
● 課題
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服薬中断が再発の最大要因
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しかし「飲みなさい」は逆効果
● AIの使い方
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副作用兆候の早期検知
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体調変化と服薬の関係を可視化
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主治医への説明補助資料生成
👉AIは「命令」せず、納得の材料を整える係。
③ 認知機能・社会機能リハビリAI
統合失調症の本体は、
幻覚妄想よりも、認知・社会機能障害
● AI活用例
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注意・ワーキングメモリ訓練
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表情・文脈理解トレーニング
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ロールプレイ型AI対話
※ ここではAIはむしろ得意。
④ 訪問看護・アウトリーチ支援AI(最重要)
私共の実務領域と直結!
● 現場の限界
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訪問は週1〜2回
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変調はその“隙間”で起きる
● AI導入後
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非訪問時間の状態推定
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「今日は行った方がいい」の判断補助
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記録の構造化・共有
👉AIは“もう一人の観察者”であって“もう一人の話し相手”ではない
ここ、思想的に重要です。
⑤ 妄想・幻覚への「直接介入しない」AI設計
❌ 危険例
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「それは妄想ですよ」
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「現実ではありません」
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「AIが真実を教えます」
→ 関係性崩壊 or 妄想強化
⭕ 安全設計
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情動への共感のみ
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行動レベルへの介入
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現実検証は人間が行う
AIは、
妄想の中身ではなく
妄想による困りごとにだけ関与
⑥ 社会復帰・地域生活支援AI
● 活用可能領域
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生活リズムの安定支援
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金銭・服薬・予定管理
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支援者間の情報連携
● 重要視点
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自立を奪わない
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管理を強めない
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選択肢を増やす
Ⅳ.倫理と最大の危険性
⚠️ 最大のリスク
「AIが妄想の登場人物になる」こと
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監視AI → 被害妄想
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対話AI → 神託・啓示
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予測AI → 運命論強化
✔ 絶対条件
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AIは黒子
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意味づけしない
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権威にならない
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人につなぐ
Ⅴ.思想的核心:AIは“現実”を教えられない
統合失調症支援で最も重要なのは、
「現実とは何か」を押し付けないこと
現実は、
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関係性の中で
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時間の中で
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信頼の中で
少しずつ共有されるもの。
AIは、
現実そのものではなく
現実に戻る“道”を整備する存在
にとどまるべきです。
Ⅵ.制度・実装の現実解(日本)
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医療保険:診療補助・モニタリング
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介護保険:生活支援AI
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障害福祉:就労・地域定着AI
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訪問看護:状態把握・記録AI
👉AI単体は不可。必ず「人の網」に組み込む。