介護士から見たフレールと認知症予防
1. 「気づき」の専門職としての役割
介護士の最大の武器は、数値化できない「いつもと違う」という違和感です。
フレイルの予兆: 「お風呂に入るのを億劫がるようになった」「歩き方がすり足になった」「食事の食べこぼしが増えた」といった、ADL(日常生活動作)の微細な変化をキャッチします。
認知症の予兆: 同じ話を繰り返すだけでなく、「表情が乏しくなる」「季節に合わない服を着る」といった周辺症状(BPSD)の前兆を早期に発見し、早期受診へ繋げます。
2. 介護現場における予防の3大アプローチ
① 「できること」を奪わないケア
介護現場で陥りやすいのが、良かれと思って手出しをしすぎる「過介護」です。これはフレイルを加速させます。
生活リハビリ: 洗濯物を畳む、食器を拭く、机を拭くといった日常動作は、指先の運動であり、脳への刺激です。
自己決定の尊重: 「今日は何を着ますか?」という小さな選択の積み重ねが、前頭葉の活性化を促し、意欲の減退を防ぎます。
② 社会的孤立を防ぐ「コミュニティ・デザイン」
認知症予防において、身体運動と同じくらい重要なのが「人との関わり」です。
サロンや通所サービスの活用: 介護士は、利用者が「そこに行きたい」と思えるような動機づけ(インセンティブ)を設計します。
役割の創出: 「この方は昔お花をやっていたから、花を生けてもらおう」といった、その人のアイデンティティに基づいた役割を作ることで、精神的なフレイルを防ぎます。
③ 栄養と口腔ケアのマネジメント
介護士は食事の場面に立ち会うため、フレイルの大きな要因である「オーラルフレイル(口の衰え)」に直接介入できます。
食事の観察: 嚥下機能の低下だけでなく、「なぜ食べないのか(義歯の不適合、気分の落ち込みなど)」を分析します。
口腔清潔: 歯磨きだけでなく、パタカラ体操などの口腔リハビリを日常のレクリエーションに組み込みます。
3. 理学療法士(PT)との連携:視点の違い
介護士とPTが連携することで、予防の精度は飛躍的に高まります。
| 視点 | 理学療法士 (PT) | 介護士 |
| アプローチ | 運動機能、歩行、筋力 | 生活動作、意欲、習慣 |
| 時間軸 | 訓練時間(点) | 日常生活(線) |
| 目標 | 「歩けるようになる」 | 「歩いて〇〇さんに会いに行く」 |
「生活そのものがリハビリである」という考え方を土台に、専門職が立てた計画を、いかに本人の「楽しみ」や「習慣」に落とし込めるかが、介護士の腕の見せ所です。
結論
介護士から見た予防の本質は、高齢者を「ケアの対象」としてだけではなく、「生活の主体者」として尊重し続けることにあります。フレイルや認知症が進行しても、その人らしい暮らしの質(QOL)を維持することが、結果として最も効果的な予防策となります。