排泄物による失禁関連皮膚炎IAD
排泄物による失禁関連皮膚炎IAD
排泄物によって引き起こされる失禁関連皮膚炎(IAD:Incontinence Associated Dermatitis)について理解を深めることは重要です。
排泄物関連失禁による皮膚炎
失禁関連皮膚炎は、皮膚が排泄物、滲出液、排泄物などの刺激性の液体に長時間さらされると発生します。このさらされた部分は、浸軟(しんなん:皮膚が大量の水分を吸収し、腫れて白くなる現象)が発生し、損傷を受けやすくなります。皮膚への刺激が続くと、皮膚のバリア機能が徐々に低下し、最終的には皮膚障害につながります。尿や糞便にさらされることによって引き起こされる失禁関連皮膚炎は、褥瘡の危険因子でもあるため、特に懸念されています。
水分による肌の変化
正常な皮膚細胞は、外部からの刺激や水分に対するバリアとして機能します。しかし、発汗や失禁などで皮膚の湿った状態が長く続くと、角質細胞(皮膚細胞)が水分を吸収して膨らみ、それらをつなぎとめている構造が崩れてしまいます。その結果、皮膚の耐久性やバリア機能が弱まり、表皮剥離が起こりやすく、異物や微生物が侵入しやすくなります。
排泄物関連の失禁による湿った皮膚
多汗症、多量の汗、失禁による便や尿の汚染で湿った皮膚は、IADの発症につながる可能性があります。これは、尿失禁または便失禁のために臀部の皮膚が常に湿っている場合に発生します。
失禁関連皮膚炎を理解するには、先ず、皮膚の役割と構造を理解することが重要です。皮膚の主な機能は、外部要因から身体を保護するバリアとして機能することで、表皮、真皮、皮下組織(脂肪)の3つの層で構成されています。表皮には、角質層、顆粒層、有棘層、基底層の4つの層があります。基底層は、毎日新しい細胞が生成される最下層であり、成熟するにつれて、皮膚の表面に向かって上方に移動します。一番外側にある角質層は、水分を保持するセラミドなどの脂質で満たされ、皮脂腺からの皮脂や汗で覆われています。
簡単に言えば、健康な肌は、水分の蒸発を防ぎ外的要因から守る皮脂膜(一次バリア)と、水分を保持して肌の潤いを保つ角質層(二次バリア)の2層構造になっています。
加齢による皮膚変化
表皮の一番内側にある基底層でつくられた細胞が分裂して新しい細胞をつくり、少しずつ形を変えながら肌の外側の層に向かって押し上げられます。角質層まで到達した細胞がやがて垢となって剥がれ落ちることで、表皮の細胞が生まれ変わります。
年齢を重ねるにつれて、肌はさまざまな変化を遂げます。細胞分裂の能力が低下し、表皮が薄くなります。細胞が最下層から表層に移動して生まれ変わるサイクルも遅くなり、角質層が薄く老化していきます。また、皮膚は細胞間脂質の生成が少なくなり、毛包や皮脂腺からの汗や皮脂の分泌が減少するため、水分を保つのが難しい乾燥肌になり、真皮や皮下脂肪のコラーゲンやエラスチンなどの繊維が減少し、弾力が失われます。バリア機能や物理抵抗力が低下した乾燥肌は、老化肌の典型です。高齢者では、尿や便からの水分によって引き起こされる皮膚の浸軟が原因で、失禁関連皮膚炎が発生することがあります。