症例84 対象者Tさんは、78歳男性、要介護5で梗塞後遺症（片麻痺あり）、糖尿病を伴う腎機能低下。排泄感覚の低下と尿路感染症を繰り返し発症している

症例84　対象者Tさんは、78歳男性、要介護5で梗塞後遺症（片麻痺あり）、糖尿病を伴う腎機能低下。排泄感覚の低下と尿路感染症を繰り返し発症している。

• 環境  在宅生活。古い公営住宅の2階に居住。トイレが和式で使用が困難。
• 介護者  妻（75歳、軽度の認知症）、息子（40歳、単身赴任中で週末のみ支援）。妻の認知機能低下により介護負担が増大。
• 課題  医療的ケアが求められる複雑な排泄ケア（バルーンカテーテルの管理や感染予防）。経済的な問題もあり、福祉サービスの利用は最小限に留まっている。

---

症例要件

1. 短期的および長期的目標を設定してください。
2. 初回訪問時の初期アドバイス内容を示してください。
3. 社会資源を活用した具体的支援内容を挿入してください。
4. 詳細なSWOT分析およびクロスSWOT分析を用いて課題解決策を整理してください。
5. BSC（バランススコアカード）形式で目標、指標（KPI）、進捗状況、次のアクションを明記してください。
6. 必要な倫理的配慮や追加事項について記載してください。
7. 作成した計画について解説を加えてください。

---

 解答例

1. 短期的および長期的目標

• 短期目標（1～3か月）
• バルーンカテーテル管理方法の家族指導を実施。感染リスクの低減を図る。
• 和式トイレに代わる簡易型ポータブルトイレの導入。
• 訪問看護の導入による医療的ケアの安定化。
• 長期目標（6～12か月）
• 感染症発生頻度の半減を目指す。
• 妻の認知症進行を遅らせるための介護リソース（デイサービス）を確保。
• 経済的負担を軽減しながら、必要な医療・福祉サービスを安定的に利用する仕組みを構築。

---

2. 初期アドバイス内容

1. 医療的ケアの強化
• 訪問看護師にバルーンカテーテルの交換頻度、感染予防対策を指導。
• Tさんの血糖管理を地域の内科医と連携して最適化。
2. 環境整備
• ポータブルトイレの貸与を手配。使用時の動作確認と介助方法を家族に指導。
3. 家族の負担軽減
• 妻の認知症ケアについて地域包括支援センターへ相談し、適切な支援プログラム（デイサービス、認知症カフェ）を利用開始。
4. 経済的支援の提案
• 医療費助成制度や高額医療費控除を活用し、負担を軽減。

---

3. 社会資源の活用

• 訪問看護サービス
• 医療的ケアの専門職による指導とモニタリングを確保。
• 介護保険サービス
• 福祉用具貸与（ポータブルトイレ）とデイサービスの利用促進。
• 地域包括支援センター
• 妻の介護負担軽減を目的とした相談窓口。
• 自治体の福祉助成金
• トイレ改修のための費用補助を提案。

---

4. SWOT分析

強み（Strengths）	弱み（Weaknesses）
- 医療的知識を持つ訪問看護師が利用可能。	- 妻の介護スキルと体力が不足。
- 介護保険サービスが適用可能。	- 経済的余裕がない。

 

機会（Opportunities）	脅威（Threats）
- 助成金や福祉制度の利用可能性。	- 感染症の再発リスク。
- 地域包括支援の積極的な連携。	- 妻の認知症進行による介護崩壊の可能性。

クロスSWOT分析（詳細）

• S×O  訪問看護と福祉助成を活用し、医療的ケアの安定と費用負担軽減を図る。
• W×O  家族ケアスキル向上プログラムで妻の介護能力を支援。
• S×T  訪問看護を中心に早期対応体制を構築し、感染リスクに対応。
• W×T  妻の健康状態をモニタリングし、適切なタイミングで短期入所を活用。

---

5. BSC形式

視点	目標	指標（KPI）	進捗状況	次のアクション
顧客（利用者）	バルーン管理と感染予防を確立。	感染症の発症頻度（月別記録）。	現在減少傾向。	訪問看護スケジュールの再調整。
財務	医療・福祉費用を最適化。	月間総費用の削減額。	助成金申請が進行中。	福祉用具の長期利用計画を作成。
業務プロセス	トイレ環境の改善とケアの安定化。	トイレ利用回数、失敗頻度の記録。	簡易トイレ導入で利用率向上。	和式トイレの改修計画を進める。
学習と成長	妻の介護負担を軽減し、健康を維持。	妻の疲労度（主観評価スケール）。	メンタルケアが必要。	定期的なリフレッシュプログラムを提供。

---

6. 倫理的配慮および追加事項

• 倫理的配慮
• Tさんの尊厳を尊重し、適切な医療的ケアを提供。
• 妻の介護意欲を損なわないよう配慮しつつ支援を提供。
• 追加事項
• 感染症予防に関する啓発パンフレットを提供。
• Tさん、妻、訪問看護師との定期的な進捗確認会議を実施。

---

解説

医療的観点と福祉的観点を統合した支援計画は、対象者と介護者双方の健康を守りつつ、ケアの質を向上させることを目的としています。SWOTおよびクロスSWOT分析により課題を構造的に把握し、短期的な対応と長期的な目標を明確化しました。また、BSCを用いた進捗管理により、具体的な改善プロセスを可視化し、持続的な改善を可能にしています。