症例88 対象者Eさんは80歳女性で要介護4、病歴は脳梗塞後遺症、重度の右半身麻痺、認知症(軽度)

症例88 対象者Eさんは80歳女性で要介護4、病歴は脳梗塞後遺症、重度の右半身麻痺、認知症(軽度)。

  • 環境  自宅(バリアフリーではない)。配偶者(75歳)と同居。
  • 課題  Eさんは排泄に関して自立できず、排泄時の失敗や不快感が頻繁に起こる。認知症により、トイレのタイミングを認識するのが困難。訪問看護による排泄ケアが必要。
  • 経済状況  年金収入で生活しているが、医療や介護費用が重荷となっている。訪問看護を受けるための経済的支援が求められている。
  • 課題  排泄ケアが未整備であり、さらに認知症によるトイレ意識の欠如といった要因が加わり、失禁や排泄の不安定さが続いている。

症例要件

  1. 短期的および長期的目標を設定してください。
  2. 初回訪問時の初期アドバイス内容を示してください。
  3. 社会資源の活用について具体的に提案してください。
  4. 詳細なSWOT分析およびクロスSWOT分析を用いて課題解決策を整理してください。
  5. BSC(バランススコアカード)形式で目標、指標(KPI)、進捗状況、次のアクションを明記してください。

 解答例

1. 短期的および長期的目標

  • 短期目標(13か月)
    • 訪問看護を週3回、排泄ケアを中心に導入。
    • Eさんのトイレ誘導と適切なタイミングでの排泄サポートを行い、失敗を減らす。
    • 介護者に対して、排泄ケアの方法や認知症患者へのアプローチをアドバイス。
    • 福祉用具の導入を検討(ポータブルトイレ、介護用おむつ、吸引機器)。
  • 長期目標(612か月)
    • 排泄ケアのスムーズな運用により、失禁の頻度を減少させる。
    • Eさんの認知症症状に応じたトイレ誘導方法を確立し、在宅ケアでの排泄自立を支援。
    • 介護者の負担を減らすために、訪問看護の頻度を調整し、家庭内の支援体制を確立。
    • Eさんが可能な範囲で排泄の自立支援を進める。

2. 初期アドバイス内容

  1. 排泄ケアに関する指導
    • Eさんのトイレ誘導のタイミングを見計らい、30分~1時間ごとのトイレ誘導を実施。
    • 失禁予防のため、介護用おむつの着用を推奨。排泄後のケアも丁寧に行い、皮膚のトラブルを防止。
    • Eさんの認知症状態を考慮し、トイレの場所や使い方を簡単にリマインドする方法を検討。
  2. 社会資源の活用
    • 介護保険サービスを活用し、訪問看護や訪問リハビリのサービスを導入。
    • 生活保護や介護費用支援制度の活用を提案し、経済的負担の軽減を図る。
    • 地域包括支援センターを通じて、地域で利用可能な無料サービスやボランティアの紹介を検討。
  3. 介護者への支援
    • 介護者が疲れ過ぎないよう、訪問看護のサービスを利用し、支援体制を強化。
    • 介護者の精神的なサポートや情報提供(排泄ケアにおける注意点、ケアの方法)を行う。

3. 社会資源の活用

  • 訪問看護サービス
    • 訪問看護師による排泄ケアの実施(週3回)。トイレ誘導や介護用具の調整。
    • 介護保険を利用して、訪問看護とデイサービスを組み合わせることで、排泄ケアの質を向上。
  • 福祉用具の活用
    • 福祉用具貸与サービスを利用し、ポータブルトイレや尿漏れパッド、吸引機器を導入。
    • トイレに行くためのバリアフリー化(スロープ、手すり)の支援を地域包括支援センターから調整。
  • 経済的支援制度
    • 生活保護、障害年金、介護費用の助成金を通じて、Eさんと介護者の経済的負担を軽減。
    • 介護保険制度を最大限に活用し、Eさんと介護者の負担を軽減。

4. SWOT分析

強み(Strengths

弱み(Weaknesses

- 訪問看護サービスを利用できる。

- Eさんの認知症によるトイレの認識の欠如。

- 介護保険を活用できる。

- 介護者の高齢と体力の限界。

- 福祉用具の貸与サービスが利用可能。

- 排泄ケアにかかる時間と労力が大きい。

 

機会(Opportunities

脅威(Threats

- 地域で利用できる福祉サービスの充実。

- Eさんの病状の進行によるケアの複雑化。

- 介護保険サービスの拡充。

- 経済的な制約によりサービス利用の制限。

- 地域包括支援センターの支援。

- 介護者の健康状態が悪化するリスク。

クロスSWOT分析

  • S×O  訪問看護と地域包括支援センターのサービスを組み合わせ、排泄ケアの質を向上。
  • W×O  認知症に伴うトイレ認識の問題を、訪問看護でタイムリーに解決。
  • S×T  訪問看護の活用により、Eさんの状態が進行してもケアが持続可能。
  • W×T  介護者の体力低下や経済的困難が続くと、ケアの質や継続性に影響が出る可能性がある。

5. BSC形式

視点

目標

指標(KPI

進捗状況

次のアクション

顧客(利用者)

Eさんの排泄ケアの改善。

失禁回数(月別記録)。

排泄の失敗が減少し、ケアが安定。

訪問看護の回数を調整し、ケアの質を向上。

財務

経済的負担の軽減。

介護費用の補助金、生活保護申請の進捗状況。

生活保護申請中、福祉用具貸与が開始。

生活保護の承認を受け、経済的支援を強化。

業務プロセス

訪問看護サービスの効率化。

看護師の訪問回数、ケアのスムーズさ。

訪問回数が増え、ケアが適切に実施されている。

看護師とケアプランの再調整。

学習と成長

介護者と支援者の知識向上。

介護者の教育時間、トレーニング実施回数。

介護者がケア方法を学んでいる。

定期的なトレーニングと支援情報の提供。


解説

この支援計画書は、訪問看護を通じて困難事例に対し、排泄ケアを中心に段階的にアプローチを行う方法を示しています。

 

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