小論文 認知症における行動・心理症状(BPSD)について
排泄ケア相談員・シニアコース・記述式問題
⇒※排泄ケア相談員については、家庭の排泄ケア相談所のWEBを参照ください。 https://www.sutokukai.or.jp/cssc/about/haisetsu.html
認知症における行動・心理症状(BPSD)について
排総研/山口勇司
【はじめに】
初めて認知症と向き合う方やその家族は、多くの不安や心配に直面することが多いでしょう。しかし、認知症についての正しい知識を持つことで、視野が広がり、気持ちに余裕が生まれます。ここでは、認知症に関する基礎知識と、その中でも行動・心理症状(BPSD)について説明します。
【認知症の症状】
認知症の症状は大きく二つに分けられます。一つは、脳の細胞が壊れることによって生じる中核症状です。中核症状には、記憶障害、判断力障害、問題解決能力の障害、実行機能障害、見当識障害(場所や時間、人物の認識障害)、失行(ボタンをはめられないなど)、失認(道具の使い道がわからなくなる)、失語(ものの名前がわからなくなる)などがあります。
もう一つは、中核症状によって二次的に引き起こされる行動・心理症状で、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)と呼ばれます。BPSDには、睡眠障害、幻覚、妄想、道迷い、暴言・暴力、拒食、うつなどが含まれます。例えば、財布をしまった場所がわからなくなり、「誰かに盗まれた」と思い込む「盗られ妄想」はBPSDの一例です。BPSDはその人の性格や環境によって異なり、その理由を理解し、適切な対応を取ることで改善する可能性があります。
【主なBPSDの症状と対応】
1.睡眠障害
日中にうとうと寝てしまい、夜は目が覚めてしまう睡眠障害は、BPSDの中で最も多い症状です。特にアルツハイマー型認知症では、1日の覚醒・睡眠のリズムが弱まり、日中に眠気が強く、夜に熟睡できない状態になります。そのため、午前中には光を浴び、昼からは適度な運動を行うなど、生活リズムを整えることが重要です。
2.幻視
レビー小体型認知症では、8~9割の患者に幻視が見られます。例えば、子どもや小さな人が見え、手の届く範囲に近づくと消えてしまう現象です。これらの幻視は非常にリアルで、患者自身が幻視と気づきにくい特徴があります。幻視や誤認から被害妄想や嫉妬妄想につながり、暴言や暴力に発展することもあります。
3.妄想
妄想はアルツハイマー型認知症の初期に多く見られ、例えば「財布や通帳を盗られた」といった「盗られ妄想」や、「食べさせてくれない」「お風呂に入らせてくれない」「夫を盗られた」などの被害妄想が発生します。これらの妄想は身近な人を犯人扱いすることが多く、同居する家族にとって非常に辛い症状です。
4.道迷い
認知症患者は、方向感覚がわからなくなり道に迷うことがあります。後頭葉や頭頂葉の障害による方向感覚の喪失や、地理的な記憶の障害による道迷いが見られます。また、環境の変化や引っ越しなどにより混乱、不安、抑うつが道迷いを引き起こすこともあります。
5.暴言・暴力
認知症では前頭葉の働きが低下し、本能的な感情を抑制する機能が失われるため、感情が暴走しやすくなります。これにより、衝動的な言動が増え、暴言や暴力につながることがあります。また、プライドを傷つけられると暴言・暴力が発生することもあります。
6.拒食
拒食の原因は多岐にわたります。歯の痛みや視覚失認、うつ状態、食べ物への妄想や誤認などが挙げられます。原因を突き止めることで、食べられるようになることがあります。
7.排泄のトラブル
認知機能の低下により、トイレの場所がわからなくなったり、排泄行為の意味を理解できなくなったりすることで排泄のトラブルが発生します。
8.うつ症状
認知機能の低下が進むと、患者は落ち込みやすくなり、家に閉じこもるようになります。
【認知症の治療法と相談先】
現時点で認知症を完治させる治療法はありませんが、早期発見による適切な投薬やリハビリによって進行を抑えることが可能です。認知症が疑われる場合は、もの忘れ外来や認知症専門医、認知症疾患医療センターを訪ね、地域包括支援センターにも相談することが勧められます。
【考察】
BPSDの症状は、認知症の中核症状に伴って現れるものであり、患者の性格や環境に大きく影響されます。適切な対応や環境の整備、薬物療法や非薬物療法の組み合わせにより、症状の軽減や改善が期待できます。特に、患者の生活リズムを整えることや、安心感を提供する環境作りが重要です。また、家族や介護者がBPSDに対する正しい知識を持つことが、適切な対応を可能にし、患者のQOLを向上させる鍵となります。
【結論】
認知症における行動・心理症状(BPSD)は、患者やその家族にとって大きな負担となることがあります。しかし、正しい知識を持ち、適切な対応をすることで、BPSDの症状を和らげ、患者のQOL(生活の質)を向上させることができます。認知症の理解を深め、適切な支援を受けることが重要です。早期発見と適切な治療、リハビリ、環境整備を行うことで、認知症患者とその家族がより良い生活を送ることができるでしょう。