記述式ケース問題35 88歳のDさんは、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症を併発しており、記憶力の低下に加えて運動機能にも制約があります。
排泄ケア相談員・シニアコース・記述式問題
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ケース35
88歳のDさんは、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症を併発しており、記憶力の低下に加えて運動機能にも制約があります。日常生活では、トイレの場所を頻繁に忘れ、トイレの時間を自分で管理することができません。介護スタッフが定期的にトイレに誘導しようとすると、「今は行かなくても大丈夫」と言って抵抗し、強い拒否を示すことが増えてきました。
また、夜間には頻尿があり、ベッドからトイレまでの移動中に転倒するリスクが高く、これまでに数回、転倒しかけたことがあります。最近では、ベッドや椅子の上で排泄してしまうことも増え、Dさんは「もう自分では何もできない」と落ち込むことが多くなっています。家族は、Dさんの心のケアと、夜間の排泄ケアをどのように改善すれば良いのか悩んでいます。
設問
- Dさんが「今は行かなくても大丈夫」と排泄を拒否する場合、介護スタッフはどのように対応すべきでしょうか?アルツハイマー型認知症の特性を踏まえた効果的なアプローチを提案してください。
- Dさんが夜間に頻尿でトイレに間に合わず、転倒のリスクがある場合、どのような対策を講じるべきでしょうか?環境整備と介助方法を含めた提案をしてください。
- Dさんがベッドや椅子で排泄してしまうことが増えている状況に対して、どのように家族はDさんの自尊心を守りながらケアを行うべきでしょうか?具体的なアドバイスをしてください。
解答例
設問1 Dさんが「今は行かなくても大丈夫」と排泄を拒否する場合、介護スタッフはどのように対応すべきでしょうか?アルツハイマー型認知症の特性を踏まえた効果的なアプローチを提案してください。
アルツハイマー型認知症のDさんがトイレの必要性を認識できず、「今は行かなくても大丈夫」と排泄を拒否する場合、強制せずに柔軟なアプローチが求められます。次の対応が効果的です。
- 穏やかな誘導
Dさんの拒否を尊重しつつ、「ちょっと一緒に歩きませんか?」と軽く歩く提案をして、歩きながらトイレに近づくようにします。トイレに行くことを目的にしない形で誘導することで、抵抗感を軽減します。
- 視覚的刺激の活用
トイレのドアを開けたままにしておき、トイレが見えるようにすると、自然とDさんがトイレを思い出しやすくなります。トイレが視界に入ることで、トイレの必要性を再認識させることができます。
- 時間を置いて再提案
拒否された場合でも、時間を少し置いてから再度優しく提案することで、Dさんが落ち着いてからトイレに行く可能性を高めます。焦らせずに丁寧に対応することが大切です。
設問2 Dさんが夜間に頻尿でトイレに間に合わず、転倒のリスクがある場合、どのような対策を講じるべきでしょうか?環境整備と介助方法を含めた提案をしてください。
夜間の頻尿による転倒リスクを減らすためには、次の対策が有効です。
- ポータブルトイレの設置
ベッドの近くにポータブルトイレを設置することで、トイレまでの移動を最小限にし、転倒リスクを大幅に軽減できます。これにより、Dさんがトイレに間に合わずに慌てる状況も減らすことができます。
- 環境整備と安全対策
夜間にトイレに行く際、道のりが安全であるように、廊下やトイレまでの道に手すりを設置し、足元を照らすライトを使って視界を確保します。また、滑りやすい床材は避け、Dさんが移動しやすい環境を整えます。
- 介助の強化
Dさんが一人でトイレに行くのではなく、夜間には家族や介護者が見守りながら一緒に移動することで、転倒リスクをさらに減らします。また、ベッドの高さを調整し、立ち上がりやすいようにすることも有効です。
設問3 Dさんがベッドや椅子で排泄してしまうことが増えている状況に対して、どのように家族はDさんの自尊心を守りながらケアを行うべきでしょうか?具体的なアドバイスをしてください。
Dさんがベッドや椅子での排泄が増えている場合、失敗を指摘せずに自尊心を守ることが重要です。家族の具体的な支援方法は以下の通りです。
- 失敗を責めない対応
Dさんが排泄に失敗した場合、責めたり指摘したりせずに「こういうこともありますよ、大丈夫です」と優しく対応します。失敗を指摘されることでDさんの自尊心が傷つくのを避け、自然な態度で片付けを行います。
- おむつや防水シートの活用
失敗が頻繁になってきた場合には、Dさんに不快感を与えないように防水シートや吸水シーツを使い、ベッドや椅子を保護することが有効です。ただし、Dさんにおむつを使う場合は、それが必要なことであると前向きに伝え、自尊心を傷つけないようにします。「これで安心して休めますね」といった肯定的な言葉で説明します。
- 前向きな誘導とルーティン作り
トイレに行くことを日常の一部として、定期的に誘導するルーティンを作ることで、Dさんがストレスなくトイレに行けるようにします。トイレに行くことが自然であると感じられるように、家族全員で統一した対応を行います。